溺愛アフロディーテ 地中海の風に抱かれて
 車が到着したのは市街地の集合住宅だった。

 四階建ての建物が中庭を囲っている造りで、外の道路からフェラーリを内側に面した玄関前まで乗り入れる。

 玄関口で待っていたのはアマンダだった。

「僕の家はまずいだろ。だから彼女に頼んだんだ」

「ありがとう、アマンダ」

「さ、こっちです」

 階段を上がって二階の部屋がアマンダの住んでいるアパルタメントだった。

 部屋中に、日本のアニメのポスターやらフィギュアが飾られている。

 彼女の趣味を知らないミケーレがびっくりしていた。

「僕はいったん家に戻るよ。明日の朝、必ず迎えに来るからね」

 ミケーレはずぶ濡れの私を抱きしめた。

「本当はずっとそばにいたいんだけど……、すまないね」

 お母さんが家にいるのだろう。

 迎えに来てくれたことだけでも感謝しなければならない。

「ありがとう、ミケーレ。待ってる」

 私は自分から彼と頬を触れあわせた。

 ミケーレが帰っていって、私はシャワーを借りた。

 気持ちも体も少し落ち着いてきた。

「美咲さん、これ使って下さい」

 アマンダが『衣装』を貸してくれた。

 ゴシックメイド?

「似合いますよ」

 せっかくのご厚意に逆らうわけにもいかないので、言いなりになるしかなかった。

 テーブルの上に湯気の立つマグカップが置かれていた。

 シャワーを浴びている間にホットココアを用意していてくれたらしい。

 私はソファに腰掛けて、温かい飲み物をありがたくいただいた。

 私の服を洗濯機に入れようとしたアマンダが顔をしかめる。

「これ、シルクですね。ミケーレからもらったんですか。なんでお金持ちって乾燥機にかけられない服ばっかり買うんですかね」

 文句を言いながらも、ハンガーに掛けてバスルームに干してくれた。

 本当に申し訳ない。

「それにしても、どうしたんですか。大里選手から美咲さんがホテルを出ていったと電話をもらったときは驚きましたよ」

「彼が?」

「大里さんと何かトラブルでもあったんですか?」

 アマンダが心配顔で私の隣に座った。

 何から説明して良いものか、どこまで説明するべきか、また思考が頭の中で渦を巻く。

『動画を撮らせてもらった』

 彼を責めるようなことを言えば、どんな報復をされるか分からない。

「何もなかった。さびしかっただけ」

 アマンダは静かにうなずいただけで、それ以上何もたずねなかった。

「寝ましょうか。疲れたでしょう」

 イケメンアニメキャラの抱き枕にしがみつきながらアマンダがベッドに寝ころぶ。

 ……愛しのダーリン様、お邪魔します。

 私はどこに寝ればいいかと思ったら、ソファの背もたれを倒すとベッドになるのだった。

「この衣装のまま寝ちゃっていいの?」

「はい、よろこんで。最高のシチュエーションですよ。眠れる黒髪ゴシックメイドさんと同じ部屋で一夜を過ごせるなんて」

 私には分からない趣味だった。

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