溺愛アフロディーテ 地中海の風に抱かれて
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カプリでの生活が始まって、一週間が過ぎた。
パオラさんは毎日やって来て、料理のお裾分けやジュゼッペさんが菜園で作ったハーブなどを置いていってくれる。
サレルノに残してきた荷物がアマンダから別荘あてに送られてきて、それもおばさんが届けてくれた。
特にメッセージなどは同封されていなかった。
大里選手からは何も聞いていないらしい。
自称『紳士』の彼は、あの日のことは約束通り口外していないようだ。
彼が遠征でジェノヴァに行っていたという話はジュゼッペさんから聞いた。
「開幕戦であの活躍だからね。ジェノヴァでも大騒ぎだったらしいよ」
サレルノFCは大里選手のゴールで開幕二連勝を飾り、得失点差でリーグ二位につけているらしい。
『好調の原因は?』という日本のスポーツ記者のインタビューに、『おもしろい動画を見ながら寝るとぐっすり眠れる』と答えていた。
私の恥ずかしい動画のことを匂わせているのだろうか。
気にし過ぎかもしれないけど、疑心暗鬼になってしまう。
ミケーレは仕事でいそがしいらしく、パオラさんの話では、ナポリ、ミラノといったイタリア国内はもちろん、パリやロンドンなど、ヨーロッパ中を飛び回っているようだった。
連絡を取る手段はないけれど、私は彼が来てくれるのを気長に待っていた。
一瞬で燃え尽きてしまうことはない。
今の私たちには、揺らめくろうそくの炎を見つめ合うような静かな時間も必要なのだろう。
彼が必ず来ると約束してくれたのだ。
時間が解決してくれる。
今はそれを信じるしかなかった。
私は自分のお金で生活に必要な物を買いそろえながら、何もない退屈な時間を楽しんでいた。
九月に入ったカプリ島はまだまだ観光客であふれていた。
一緒に買い物に出かけたパオラさんが肩をすくめる。
「ストライキの反動かしらね、いつもより混んでるくらいよ」
観光で成り立っている島だから、その方が働く人にはいいんじゃないだろうか。
「でもね、ほら、ここはイタリアでしょう。いそがしいとみんな仕事したくなくなっちゃうのよ。みんな退屈が大好きだからここにいるんだもの」
それでも生活が成り立つんだから、日本人からしたらうらやましい限りだ。
パオラさんの旧宅は観光客の多いアナカプリの街からは少し外れたところにあって、たまにソラーロ山のハイキングを楽しむ人を見かける程度で、とても静かだった。
のんびりとした時間が過ぎていく日々の暮らしが私の心にも落ち着きをもたらしていた。