溺愛アフロディーテ 地中海の風に抱かれて

   ◇

 ミケーレは週に一度くらいの頻度で時間を作ってカプリに来てくれた。

 つわりを隠すことができなくなって、私は彼に妊娠した事実を伝えた。

 彼は両手を広げて私を迎え入れながら、とても喜んでくれた。

「きっと僕らの愛を祝福してくれているんだよ」

 そういった彼の素直な気持ちは私もうれしかった。

 海の見える窓辺のテーブルで、私の焼いたピザをおいしそうに食べる彼の笑顔は素朴で、いい父親になりそうだった。

 遠い世界の人だと思っていたのが、急に自分と同じ一人の人間なのだと思えるようになった。

 結婚はしなくてもいいという意思も伝えたけど、それについては彼はあくまでも形式にこだわっているようだった。

「なんとか母を説得してみせるから。なんといっても、僕は父親なんだからね」

「形式にこだわる必要はないんじゃない?」

「いや、これは僕の気持ちなんだよ。君と子供に対する責任だ」

 彼のその気持ちはもちろんうれしかったけど、そううまくいくとは思えないのもやはり重荷になっていた。

 逆に彼を説得しなければならないのかもしれない。

 新しい命はどんどん大きくなっているのだ。

 時間をかけてじっくりという状況ではなくなってしまったのだ。

 そして、もう一つ、重大な問題も解決していなかった。

 この子がミケーレの子であるという保証はないのだ。

 私はそれを言うことができなかった。

 彼のうれしそうな顔、彼の優しい言葉、彼の誠実な気持ち。

 それが私に重くのしかかっていた。

 大里選手は活躍を続けていて、連続得点記録を更新していたし、リーグの得点王ランキングでトップを独走していた。

 チームも首位争いに絡んでいて、ジュゼッペさんはご機嫌が良かった。

 ワールドカップ予選の日本代表チームに合流するためナポリを発ったというニュースも流れていた。

 時々カプリにやってくるアマンダにそれとなく聞いてみても、特に彼から何か言ってきたり、私のことをたずねたりすることはないようだった。

 もう彼の中では私は終わった女なのだろう。

 ゆきずりの戯れであったのなら、それはそれでかまわない。

 むしろ、その方がお互いにとって都合がいい。

 私の方から騒ぎ立てなければ、彼の言葉通り、あの動画は用済みフォルダに封印されるのかもしれない。

 でも、もし父親が彼だとしたら……。

 その時は私が一人でこの子を育てていくしかないだろう。

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