溺愛アフロディーテ 地中海の風に抱かれて
 それはめちゃくちゃ恥ずかしい動画だった。

 あまりにも恥ずかしくて直視できない。

 一瞬で顔が熱くなる。

『ミケーレ……』

 私が枕を抱きしめていびきをかきながらミケーレの名前を呼んでいる動画だったのだ。

 コリコリと歯ぎしりまでしているオマケ付きだ。

「恥ずかしいだろう。消してほしいか」

「なんですか、これ」

「あんただよ」

「だからそれは分かりますけど、なんでこんな動画撮ったんですか」

「おもしろいからだよ」

 恥ずかしい動画……。

 ある意味確かに、こっちの方が恥ずかしい。

「なんの動画だと思ってた?」

「そういうこと聞くのって、会社だとセクハラですよ」

「何言ってんだよ、合意の上だっただろ。第一、俺はあんたと添い寝しただけだ」

 添い寝?

「見りゃ分かるだろ。あんたはいびきかいて好きな男の名前をつぶやきながら眠ってたんだぞ。俺に何ができる」

 じゃあ、このお腹の子は?

 彼が窓の外の景色を目で追いながらつぶやいた。

「俺の子供のはずがないだろ。キリストじゃあるまいし」

 なんだ、そうだったのか。

「なんですか、もう、ずっと心配してたんですよ」

「何を逆ギレしてんだよ。なんなら、やっておけば良かったか?」

「べつに、いいですけど」

「なんだよ、その言い方」と彼があきれ顔で笑う。

「べつに、なんでもありませんよ」

 彼がスマホの画面を私に向ける。

「あんたが消していいぞ」

 消去ボタンを押そうとして、私はやめた。

「ケンスケ」と、彼の名前を呼んだ。

「ん?」

 驚いた表情の彼に尋ねた。

「もしかして、自分じゃ消せなかったんですか?」

 彼の耳は真っ赤だ。

「そんなわけないだろ」

 そして彼は笑みを浮かべながら首を振った。

「あんたいいディフェンダーになれるよ。この俺がかわせなかったんだからな」

 お腹をさする私を見て、彼がつぶやいた。

「安心して産めよ」

「はい」

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