溺愛アフロディーテ 地中海の風に抱かれて
 そして、四月下旬。

 出産まであと一ヶ月弱となった。

 私は体調も良く、お腹の子の経過も順調だった。

 関東ではとっくに葉桜になった頃、SNSで『#角館のイタリア人』というハッシュタグが拡散していた。

 秋田県の角館は関東よりも三週間くらい遅く桜が開花する。

 その桜の下で、イタリア人男性と写真を撮った人々がそれをSNSにアップして拡散しているのだ。

 SNSによると、その男性は愛する女性を追いかけて日本に来たと言っているらしい。

 でも、その女性がどこにいるのか分からないので、みんなで写真を撮って拡散するのに協力してあげているということだった。

 彼は角館で桜が咲き始めたころから毎日その場所に立って、観光客と写真を撮っているらしい。

 写真のイタリア人男性は『ティ・アーモ、ミサキ』という札を持って女性達と肩を組んでいる。

 イタリアの空の色で染めたような青いシャツを着たその人は、まぎれもなくミケーレだった。

 ちょっと、そんなところで何してるの!?

 臨月で体のことが不安だったけど、私はいても立ってもいられなくなって秋田新幹線で東北に向かった。

 角館は武家屋敷の街だ。

 枝垂れ桜やソメイヨシノに彩られた古い町並みを求めて、国内はもちろん、海外からもたくさんの観光客が押し寄せる。

 タクシーを降りて、SNSで噂されている場所に来てみると、彼は確かにいた。

 今日も『愛している』という札を持って私を探していたのだ。

 ミケーレのまわりには女の子達の輪ができていた。

 まるでタレントみたいな扱いだ。

 桜と武家屋敷だけでも映えるのに、ネットで話題のイタリア人と写真を撮りたがる女の子達が群がっているのだった。

 なんだかモテモテじゃないのよ。

 ほんと、イタリアの男って、どうなってるのかしらね。

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