溺愛アフロディーテ 地中海の風に抱かれて
「誰の子供かなんて関係ありません。日本のサッカー界全体を十年は進めるためのプログラムですから。十年でも遅いくらいですよ。日本が十年分を一年で進めようとしても、ヨーロッパはその間に二十年先に行ってるでしょう。それが現実なんです」

 声のトーンが高くなる。

「私が第一線で活躍できるのもあと数年でしょう。次の日本代表の育成は今からでも遅いんです。いざ海外に出ようと思っても、すぐに適応できるわけじゃない。若いうちから海外に出るためには、逆算して何をどの段階で準備していかなければならないか。そういった経験を伝えていくことも大事なんです。想像を絶するメンタルが要求される。甘くない現実が待っている。だけど、日本に閉じこもっていては味わえないとてつもない達成感と、巨額の報酬、そして何よりも世界的名声が手に入る。それをしっかりと日本全国のサッカー少年少女達に伝えるのがあなた方の仕事でしょう。違いますか?」

 記者達は誰も発言できないでいる。

「私ならそれができる。だから財団を設立してこのプログラムを企画したんです」

 彼のお説教は続く。

「私だけじゃない。マスコミだってもっと危機感を持たないと。あなたも日本代表チームの提灯記事を書くために記者になったわけじゃないでしょう。それなら前の記事のコピペでじゅうぶんじゃありませんか。AIにまかせておけばいい。勝っても負けても『感動をありがとう』ばかり。こっちとしては『どういたしまして』ですよ。もっとプロフェッショナルな質問はないんですか?」

 記者達の沈黙は続く。

 彼らを見回しながら大里選手が口を開いた。

「最近私はある女性に振られました。だからイタリアを去ったんです。知りたかった情報はこれですか? 他に質問は?」

 記者がおずおずと手をあげた。

「別れた原因は何ですか?」

 その質問に彼はイタリア語で答えた。

 動画はここだけ字幕がついている。

「サッカーは一流でも、男としては最低だからでしょう。次のプロフェッショナルな質問は?」

 会見の後、イタリアのアマンダからメールが届いた。

「なんか日本で私の写真が出回ってるそうですね。大里健介の恋人だったとか。私、二次元にしか興味ないんでメイワクですよ」

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