溺愛アフロディーテ 地中海の風に抱かれて
 サクラが生まれて、もう一つ世界が動いていた。

 エマヌエラさんは所有する株式を全てドナリエロ財団の信託財産として寄付したそうだ。

「普通のおばあちゃんになります」

 財閥のあらゆる権利を捨てて、引退するということらしい。

 その後、突然来日したお母さんが文化庁長官と握手をしている姿がニュースで流れていた。

『大規模なイタリア絵画展を日本で開催。名家秘蔵の逸品を初公開。日伊友好に貢献』

 お母さんはその後京都を訪問して、美術工芸、料理やお茶といった日本文化を存分に堪能したらしい。

 よほど気に入ったのか、着物姿でおみやげを持ってきてくれた。

「この山芋のわさび漬けがね、とてもおいしいのよ」

 孫娘を抱きながらとても御満悦だ。

「あなた達、結婚式はいつするの?」

 あなたのせいでできなかったんですけど、とは言わないでおいた。

 内緒だけど、実はもう籍は入れてある。

 角館から戻ってきてすぐに婚姻届を出しておいたのだ。

 お母さんは日本語を習っていて、私のイタリア語よりよっぽど上手に話すようになった。

 最近は書道も始めたらしい。

『爛漫とサクラが美咲角館』

 変な俳句を色紙に書いてベビーベッドに飾るのはやめてほしい。

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