溺愛アフロディーテ 地中海の風に抱かれて
 ミケーレはずっと日本に居続けている。

「会社なんて、僕がいなくたってどうにでもなるよ。そのために優秀な連中を雇ってるんだからね」

 私たちはイタリア料理のファミレスチェーンがある街に引っ越して暮らしている。

 もう少し娘が大きくなったらイタリアに移住しようと思う。

 この子に見せてあげたいものがたくさんあるからだ。

 私は体質なのかあまり母乳が出なかった。

 でもその方が、夜中にぐずって泣いたときにミケーレがミルクをあげられるので、かなり助かっている。

 ミケーレはミルクを飲ませたあとにゲップをさせるのがうまい。

「はーい、ゴキゲンですね。ほら、おねんねですよ」

 彼はしわしわ顔の娘を抱っこしたままリビングを歩き回る。

 おとなしくなったところで、そっとベッドに置いて、布団を掛ける。

 彼も寝るのかなと思ったら、ベッドの柵にもたれかかってじっと娘の寝顔を見ているようだ。

 甘いささやきが聞こえる。

「ああ、僕は君の虜だよ、サクラ。君は僕のヴィーナス、僕のアフロディーテだ」

 蹴っ飛ばしてやりたいくらいの溺愛ぶりだ。

 イタリアの男って……。

 本当に、どうなってるのかしらね。

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