溺愛アフロディーテ 地中海の風に抱かれて
 ちょっとはときめいてしまったこともあったけど、さすがの私もイタリア人の会話には慣れてきた。

「そういうことって数撃てば当たると思っているでしょう」

「僕はいつも本気さ、君にはね」

 だから……、もう。

 言えば言うほど、どんどんチャラくなるじゃない。

 ミケーレはビーナス像の前に立って女神に手を当てた。

「女神像に誓うよ。僕は君に嘘は言わない」

 真剣なまなざしなのに、触ってるのは女神の胸じゃないの。

 ていうか、揉んでるでしょう。

 もう、わざとならサイテー。

 ビーナス像のすぐ横の扉を開けるとそこは寝室だった。

 一部屋が高級マンションのリビングルームくらいの広さで、猫足の浴槽のついたバスルームと、トイレは別になっている。

 ベッドも寝相の悪い二人でもぶつからなくてすみそうなほど大きい。

 なんだかプロレスのリングみたいだ。

 私一人だったら絶対に大の字になって飛び込んでいただろうな。

「シニョリーナ、リモンチェッロをお持ちしましたよ」

 パオラさんが黄色い液体の入ったボトルと小さなグラスを運んできてくれた。

「ああ、ちょうどいいね。ありがとう、パオラ。これはカプリの名物だよ。レモンのお酒だね」

 さっそくミケーレが三つのグラスにリモンチェッロを注ぐ。

 三つ?

 パオラさんが当然のようにグラスを一つ持ち上げて、サルーテと微笑んだ。

 サルーテ!

 乾杯!

 二人が一息であおっているので私も真似をしてみたけど、思わずむせてしまった。

 何これ。

 レモンの香りがとても爽やかだけど、喉が焼けそう。

 額に汗が浮かんできてしまった。

 おさえようとするとますます咳が出てしまう。

「あらあら、お嬢さんには強すぎたかね」とパオラさんが背中をさすってくれる。

「ごめんなさい。こんなに強いお酒だとは……、思わなか……ったから」

「いや、僕の方こそ、説明が足りなかったね。美咲は東洋人だから、お酒には弱いのかもしれないね」

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