溺愛アフロディーテ 地中海の風に抱かれて
 私の部屋まできて、彼は私を膝の上に乗せながらベッドの上に腰掛けた。

 一瞬目が合っただけで耳が熱くなる。

 そんな私の様子を彼は愛おしそうに眺めている。

 そんな彼の視線から逃れるために胸にもたれかかろうとすると、彼はそのままベッドに倒れ込んだ。

 それからのことは覚えていない。

 何が起きているのか分からなかった。

 意識も感覚もみな吹き飛んで私の心は真っ白だった。

 握りしめたシーツのように純白で、彼はそれを自分の色に染めていくのを楽しんでいた。

 私はそんな彼の全てを受け止め、何度も求め合い……。

 人生で一番濃密な一夜を過ごし……。

 ……そして、朝を迎えていた。

 広いベッドの上に起き上がると、二人の服が重なり合って散乱していた。

 鈍い空の色がしだいに青みがかっていく。

 南側に面した窓の外には、先取りした朝焼けに赤く染まるソラーロ山がそびえている。

 まるで燃え上がる彼の情熱のようだ。

 柔らかい光に包まれた部屋の中で、私はかたわらで満足そうな寝息をたてているミケーレの髪をそっと撫でていた。

 私は幸せだった。

 幸せをこの手につかむことなんてできないと思っていた。

 それは空気のように儚く、霧のようにぼんやりしているものだと思っていた。

 でも違う。

 今私は幸せを知っている。

 この手にしっかりと触れることができる。

 心の底から叫びたいほど私は幸せだ。

 グラツィエ、ミケーレ。

 ティ・アーモ。

 私のミケーレ。

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