溺愛アフロディーテ 地中海の風に抱かれて
「美咲は今日は何かしたいことはあるのかな?」

 あなたと一緒にいたい。

 その言葉をオレンジジュースで流し込む。

「特に何も。何かいいところはある?」

「僕はラヴェッロに行くんだけど、一緒にどうかな」

「それはどこにあるの?」

「アマルフィのとなりだね。高台にあるテラスからの絶景が楽しめるよ」

 元々アマルフィにも行くつもりだったからちょうどいい。

「そういえば私、アマルフィのホテルも予約してあるんだけど」

「ああ、じゃあ、秘書に言ってキャンセルさせておくよ」

 気になっていたことを聞いてみた。

「あの、ミケーレ、私はいつまでここにいていいの?」

「一生」

 イタリア男の冗談だとは分かっていても、当惑してしまう。

「真面目な話なんだけど」

「言っただろ。僕は君に嘘はつかないって。僕も真面目だよ」

「だから……」

 そのとき、パオラさんがトレイにコーヒーをのせてやってきた。

 私の前にはカプチーノが置かれる。

「はい、お坊ちゃん。カフェラテのドッピオね」

 おばさんはにやにやしながらミケーレの前にカップを置いて去っていく。

「パオラさん、どうしたの?」

「ああ、これがね……」

 ミケーレはカフェラテに砂糖を大盛りで何杯もいれながら説明してくれた。

「エスプレッソをダブルでなんて、ジュゼッペに見られたら、イタリアの男の飲み物じゃないって怒られるんだよ。エスプレッソはいれたらすぐに飲むものだからね。一杯をさっと飲むのが絶対の掟なのさ」

「こだわりはわかるけど、好きな飲み方でいいじゃないの」

「ああ、僕もね、日本にいたころにこの飲み方が気に入ってね。だから、ジュゼッペがいないことを確かめてから頼んでるんだよ」

 だからさっき辺りを見回していたのか。

「イタリアのバールではみな同じ飲み方をするから、日本にあるようなカフェチェーンがイタリアでは流行らないんだよ。エスプレッソのバリエーションがたくさんあるのはいいことだと思うんだけどね」

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