溺愛アフロディーテ 地中海の風に抱かれて
「意外と頑固なのね。イタリアの人って」

 ミケーレが笑う。

「日本人からするとイタリアの男はチャラ男だと思われてるかもしれないけど、僕なんかはジュゼッペから言わせるとイタリア男の風上にも置けないガキってことになるんだよ。どっちからも責められて板挟みってやつだよ」

「じゃあ、日本に逃げて来ちゃえばいいんじゃない」

 軽い冗談のつもりだったけど、ミケーレの表情が一瞬曇った。

「そうしたいけどね、なかなか難しいよ」

 そうだ。

 背負っている物が大きすぎる。

「ごめんなさい」

「いやいや、美咲は何も悪くないよ」

 せっかくのカプチーノも冷めてしまった。

 気まずい空気のまま朝食を終えて、私たちはアマルフィへ出発することになった。

 いつのまにか洗濯されていたブラウスとジーンズに着替える。

 ミケーレは昼間はアマルフィで私と時間を過ごし、夕方からまたサレルノへ移動するらしい。

「すまないね。今夜も一緒にいたかったんだけど、仕事の都合もあるんだよ」

「分かってる。私のために少しでも時間を作ってくれて感謝してるから」

 連れてこられたのは屋敷の隣にあるヘリポートだった。

「ヘリコプターで行くの?」

「ああ、すぐ着くよ」

 ミケーレがさっさと操縦席に乗り込む。

 正直不安だったけど、口にするのは失礼かと思って、黙って覚悟を決めた。

 後部座席に座ってベルトのバックルをはめる。

 ヘッドセットを装着するとすぐにエンジンがスタートした。

 浮いた瞬間はお尻がムズムズしたけど、上昇を始めると意外と安定していて、ソラーロ山のリフトよりも揺れなかった。

「ほら、全然こわくないし、楽しいだろ」

「そうね」

 後ろを振り向いてウィンクするのはやめてほしい。

 ヘリコプターは一気にアナカプリの街の上を通過して、島の東端からソレント半島に向かって進んでいく。

 地球が丸く見える。


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