溺愛アフロディーテ 地中海の風に抱かれて
 ふと、あたたかな気持ちがこみ上げてきた。

 好きなのだ。

 愛しているのだ。

 だから失うことを恐れているのだ。

 本当はそれを恐れているからネガティブな理由ばかり探して自分を納得させようとしているのだ。

 彼を否定することで自分の自信のなさをごまかそうとしているのだ。

 私が外国人だから。

 私は庶民だから。

 住む世界が違うから。

 本当は私自身を否定しているんだ。

 だからすっきりしないんだ。

 私はミケーレの手をつかんだ。

 一瞬驚いたような表情を見せた彼も私の手を握りかえしてくれた。

 捨てられることを恐れているんだ。

 いつだって切り捨てられてもおかしくない自分の立場が嫌なんだ。

 それを彼のせいにすることで自分を正当化しようとしているだけなんだ。

 どうしたらいいの?

 私はいったいどうしたらいいの?

 ミケーレに尋ねるわけにもいかない。

 私にできることは彼を信じることだけだ。

「ねえ、ミケーレ」

 大聖堂を眺めている彼を見上げながら私は名前を呼んだ。

「なんだい?」

「愛してる」

 彼が微笑む。

「僕もだよ」

「違うの」

「何が?」

「そうじゃないの」

「だから、何が違うんだい?」

「私はあなたを愛しているの。でもそれを伝える言葉が分からないの」

 ミケーレはじっと私のことを見つめながら私の一言一言を聞き逃さないように耳を傾けていた。

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