青く薫る





 再会は最悪の形で訪れた。切り捨てるとは言いながらも元センターの3人は運営に呼び戻されて、彼女たちがボイコットしたことを謝罪すると共に、新しいセンターのお披露目のための記者会見を行うらしい。

 謝罪。なんて重い言葉だろう。由衣たちは、そんなに悪いことをしたの? 理不尽な仕打ちに小さく抵抗しただけじゃないの? もちろん、まずすべきは直談判だったかもしれないけど、何の相談もなしに約束を破った運営に何か言いに行ったところで何かが変わったとも思えない。

「三田 薫子さんはいりまーす!」

 ホテルの控室で待機していたあたしたちの沈黙を破ったのはスタッフだった。新センターになる子の名を告げながら入ってくる。あたしたちのほうが先にいて、あとから新人が来る、この時点でもうあり得ない屈辱。序列があからさますぎて、咳をするみたいに乾いた笑いがあちこちで起こった。

 スタッフに続いて扉の向こうからやってきたのは、日焼けのあの子だった。オーディションの時より少し垢抜けていて一瞬わからなかったけど、間違いない。

「初めまして。三田 薫子と申します。まだまだわからないことばかりですが、先輩がたに早く追いつけるように頑張りますのでどうぞよろしくお願いします」

 追いつく以前にセンターじゃん。心の中でそう毒づきながら、無言で会釈。みんなも同じような感じだったから、心の中もだいたい同じだと思う。そこで記者会見の段取りを聞いて、「元」センターだった3人とこの薫子とかいう新しいセンターさんが手を取り合う画をいただきますと言われて、あたしたちは互いに顔を見合わせた。

「手を取り合うってより、靴でも舐めた方がいい画が撮れるんじゃないですか」
「玲、やめなって」
「だって愛、こんなのってないよ……」
「……よろしくお願いします」

 スタッフに嫌味で当たる玲、覚悟したのか険しい表情の愛、作り笑顔を浮かべた唇をかみしめる由衣。あたしたちは元々ひと山いくらの存在だったけど、彼女たちは違う。センターという王座を奪った相手と仲良く手を取るなんて、死んでもしたくないんじゃないかと思う。

 会見時間は謝罪1分薫子10分。眩しい祝福のストロボは、全部が薫子に注がれた。結局、あたしたちはとても弱い立場なんだということを、嫌というほどに思い知らされただけだった。

 その夜、玲が死んだ。


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