番外編 溺愛旦那様と甘くて危険な新婚生活を
「………なんで出てくれないんだ?」
焦りながら通話を切り、留守番電話を再生する。
すると、雑踏のザワザワとした音と共に、ハーッハーッという荒い呼吸が聞こえていた。
『…………ほたる………悪いな、しばらく会いに行けなくて………俺さ、ちょっとやばくて………こうやって話せる時間も短くなってるんだ………』
「………ハルト………さん」
その声はとても弱々しく、そしてガラガラな声でハルトだと感じられないものだった。けれど、蛍にはわかった。それが、ハルトの今の声だと……きっと変わり果ててしまったのだと。
『………悪いな。約束したのに、おまえをこの世界から連れ出してやろうって決めたのに………なんか無理っぽいんだ………ごめん………。初めておまえに会ったとき、すっごいやる気ないし、可愛げもない男だけど…………自分に弟がいたら、こんな感じなのかなって思ったんだ。………だから、おまえだけでも助けたいって思ったんだ………ホタル………』
「………っっ…………」
『…………あぁー………ダメだ。また、頭がいたい………薬が………薬ののまないとっ………』
先程より呼吸が荒くなり、薬と呟くハルト。それは正しく麻薬の禁断症状だった。
音だけでもハルトが薬漬けになっているのがわかった。ハルトが自分から麻薬をとるような男じゃないのはわかっている。
無理矢理摂取させられたのだろう。
蛍はハルトの言葉を唖然と聞くしか出来なかった。
気づくと瞳からボロボロと涙がこぼれていた。
泣いたのはいつぶりだろうか。
家族から見放されても、殴られても涙なんか出てこなかったのに。
どうして、今、涙が流れるのだろうか。
『………ホタル、おまえは大切な友達なんだ…………この組織から出るんだ………俺の代わりに…………笑っててくれ…………じゃあな』
そこで通話はブツリッと切れた。
虚しく機械音声が流れる。