若奥さまと、秘密のダーリン +ep2(7/26)
佳織の眉はぴくりと歪む。
即答で断りたいと、心から思った。

でも、断るにはそれなりの、十分な理由がなければならない。
なにしろ今朝も、事務所のボスから直々に
『くれぐれも粗相のないように』と念を押されているのである。

『この事務所をここ銀座の一等地に構えていられるのも月井グループのお陰だ。
俺は彼に靴を舐めろと言われたら喜んで舐める。三回まわってワンと言えと言われてもその通りにする。
最もそんなことをおっしゃる方ではないが。
いいか羽原、彼は王で、自分は床磨きの奴隷だと思って仕事をしなさい。わかったな』

彼のためなら犬にもなるというボスが、佳織の我儘を許してくれる可能性は、ゼロだろう。

固唾を呑み、泣きたくなる気持ちを抑えて、ひとつ聞いてみた。

「あの、なぜ私が?」

心の中で、
私は便利屋ではなく弁護士なのですが? と言ってみた。

「君が優秀な弁護士であるうえに女性だから。
月井の人間でもない弁護士である君の話なら、彼女もきっと安心して心を開いてくれるだろう。
それに君は、僕が信用できる少ない人物のうちのひとりだからね」
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