若奥さまと、秘密のダーリン +ep2(7/26)
彼女は、夫となった月井夕翔とふたりきりで話をしていた。
楽しそうに笑いながら……。

佳織は、ふたりに近寄ることすら出来なかった。
その後リビングで会った時に彼女に掛けた言葉は、「おやすみなさい」。

大丈夫?とか、嫌な思いはしていない?とか、せめて、幸せ?とか。掛ける言葉はいくらでもあったのに、何ひとつとして口に出来なかった。

あまりにも幸せそうで。曇りのない笑顔は、喜びに満ちた新婦のそれで、本当にいいの?とそのひと言すら言えなかったのだ。

新婚のふたりは、あの後どうなったのだろう。
なにも言えなかったくせに、せんないことを、つい、考えてしまう。

『羽原さん、何度も言いますけど、子供じゃないんですよ? 彼女は幼く見えるかもしれませんが、自立したひとりの女性なんです』
呆れたような矢神の声が、脳裏をよぎる。

「――はぁ」
またひとつ溜息をついて時計を見ると、既に九時。

朝食は各自部屋で取ることになっている。内線電話で連絡すれば届けてくれることになっていて、皆が揃うのはランチだ。

――それまでもう少し寝よう。
時計のアラームをセットして、佳織は布団に潜り込んだ。
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