若奥さまと、秘密のダーリン +ep2(7/26)
向葵はこれまでずっと、色々なアルバイトをしている。
長い休みには、オフィスビルに通って事務職の短期アルバイトをすることもある。

去年の夏休みには丸の内のオフィスでアンケートの入力作業をしたし、青山のオフィスではデータを集計する仕事もした。
今年の春休みにはイベントの準備などというバイトもしている。

そのうちのどこか、出入りした会社に彼がいても不思議はないだろう。
でもやはり思い出せない。

「うーん」
出るのは唸り声ばかり。

「そっかー、残念」

そうこうするうち食事が終わったようで、彼が席を立った。

ありがとうございましたと頭を下げて見送ったその時、向葵はふいに思い出した。

微かに上げた口角。
その口元で浮かんだ人がいる。

――あの人だ!

確信しながら、その彼が入口の扉を潜るのを見送っていると、夏梨が小走りにやってきて向葵の袖を引っ張った。

「近くで見たけど、やっぱり素敵だったよ」

「夏梨、私、思い出したよ。たぶん」

「え? どこの人だった?」

「ウォーターサーバーの水を運んでいたお兄さん」

夏梨が目を丸くする。
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