若奥さまと、秘密のダーリン +ep2(7/26)

「え？　あの人が水を？　スーツで？」

「違う違う、作業服で」

「ええ？　でもあの人、靴はピカピカだし、何かスーツも高級そうでシワひとつないし、バッグも何もかも高そうだし、いい匂いもしたよ？
　ウォーターサーバー運ぶ人って、そんなに儲かるの？」

畳み込まれるように夏梨に突っ込まれ、向葵は「うーん？」と首を傾げた。

そう言われると、自信がない。

彼については以前、アルバイト先の先輩女子に言われたことがある。
『仮に顔やスタイルが良くてもダメ。あの人は下請けの、しかもバイトよ？　どうせ目を付けるなら、皺のないいいスーツを着たやり手のビジネスマンじゃなきゃ』

向葵が彼を優しくて素敵な人だと褒めた時、先輩はそう言って呆れるように溜め息をついたのである。

――じゃあ、別人？

さっきの客は夏梨が言うように、仕立てのいいスーツを着ていたし、やり手のビジネスマンに見える。
見間違いかなぁ？とため息をつく。