若奥さまと、秘密のダーリン +ep2(7/26)
全てはまず、生きていくために。

花森家に関する調査報告書を読んでいる夕翔には、わかっていた。
彼女がまだ幼い頃に両親は離婚している。当時、父親は貧乏な学者で、振り込まれる養育費は微々たるものだった。母親は小さな会社の事務員として働いて、母娘の生活を支えたが、さほど体は丈夫ではなかったらしい。

疲れて帰って来る母を、玄関から飛び出してくるように向葵は笑顔で出迎えた。というのは当時、彼女たちが住んでいた集合住宅の住人の話だ。

つらつらそんなことを考えながら家路についた。


「おかえりなさい」
相変わらずの笑顔で、向葵はひょっこりとリビングから顔を出した。

クスッと微笑んだ時、肩の力は抜けて心はすでに癒されている。

彼はそれを感じとる。
「ただいま」と言って、向葵の顎を指ですくい、やわらかい頬にキスを落とす。
< 209 / 314 >

この作品をシェア

pagetop