若奥さまと、秘密のダーリン +ep2(7/26)
そう思いながら、向葵は背中に背負ったリュックを外し、ガサゴソと探し出したマスクをした。

止まらない涙は突然のアレルギー。
悲しいからじゃない。

大丈夫、大丈夫と時分に言い聞かせながら、向葵はバスに乗った。



懐かしく感じるアパート見上げた向葵は、最初に大家さんの部屋に向かった。

「ただいま帰りました。長い間ありがとうございました」
「おお向葵ちゃん、おかえり。おやどうしたんだい?風邪かい?」

「いえいえ何かのアレルギーみたいでグスグスしちゃって。これ、お土産です」
「あらま、ありがとう。お大事にね」

自分の部屋に入ると、懐かしい匂いがした。
大家さんが風を通してくれていたおかげで、カビ臭いこともない。

荷物をおろして、ベッドに横たわる。そしてあらためて思った。

――この部屋、こんなに狭かったんだなぁ。
でも私には十分だ。掃除も楽だしね。

そう思いながら薄く笑うと、また涙が零れた。

レストランで真行寺夫妻と会った時、化粧室に行って戻る途中、耳に届いた声。

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