若奥さまと、秘密のダーリン +ep2(7/26)

立ち止まった夕翔は振り返って薄く笑う。

「落ち着けよ、矢神。コーヒーを飲むだけだ。彼女には気づかないふりをする。わかったな」

「――はい」
なんとも言えない表情を浮かべながら、矢神はゆっくりと頷いた。


実は昨夜、夕翔は予定通り出張から戻っていたのである。

急に帰って、驚いた顔を見ようと連絡もしなかった。
残業することもなく仕事が終わると同時に、夕翔が向かったのは向葵がいるはずのマンションだったのである。

たった二泊の出張。
そんな出張はよくあることだし、行くまではなんとも思っていなかった。

大阪での一日目。ひと息ついた夕方、担当者と食事に向かう途中のことだ。
何気に目に映ったショウィンドウ。スポットライトを浴びて輝くアクセサリーに目に留まり、ふいに思い浮かんだ向葵の笑顔。
立ち止まって、ネックレスを見つめた。

『寄って行かれますか？』

その時点で仕事は粗方済んでいた。