若奥さまと、秘密のダーリン +ep2(7/26)
「就職活動じゃないからなぁ。――却下」

次に何着か取り出したはワンピース。
彼とレストランでお食事する時とか、ふたりで美術館に行く時とか用のブランドのワンピースが何枚かある。
白、小花柄、チェック模様に無地のもの。

「えーっと」と考えてヒタと目を留めたのは、明るい幾何学模様のシルクのワンピース。このワンピースを着た時、夕翔がしげしげとよく似合っているねと褒めてくれた。

「うん。これにしよう」
化粧もばっちりして、汗だくになって化粧が崩れたりしないよう、会社へはタクシーで向かった。
タクシーを降りて、深呼吸をする。

『受付で、月井の妻ですって言えばいいよ』

月井の妻。
彼に言われた通りそう言おうと喉の奥で復唱しながら、向葵はロビーに足を踏み入れた。

――大丈夫、大丈夫。
ただお弁当を届けるだけなんだもの。


***


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