若奥さまと、秘密のダーリン +ep2(7/26)
この応接室は、上客だけが通される。
通常の客が通されるのは無機質な会議室だ。

いま彼が座っている猫足のソファーは、ボスがヨーロッパのどこからか輸入した高級品だが、優雅な彼にはとても似合っている。

まるで中世の貴族のようだ。

重厚感のあるしつらえが自慢のこの部屋だが、彼ほどここを優雅に惹きたててくれる客はいない。

さぞかしソファーも喜んでいるだろう。


 ――その彼がなぜ、そんなことを私に頼んでくるの?

戸惑いながら、佳織はテーブルに戻した資料を再び手に取った。

羽原佳織(はねはら かおり)二十九歳、弁護士。

なにはともあれ大切なクライアントからの依頼である。
誠心誠意をもってあたらなければと、自分に言い聞かせた。

疑問はひとまずさておき、
齟齬をきたすこのないよう確認することにした。
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