若奥さまと、秘密のダーリン +ep2(7/26)
佳織が知る彼と噂になった女性といえば、有名女優に有名アーチスト。でも彼女たちが本当に付き合っていたのかどうかもわからない。取り沙汰された写真も、実は大勢いる中で、たまたまふたりで話をしているところだけカットされたものとか、記憶ではそんなあやふやなものばかりだった。

「どうなんですか? 羽原さん。ありますか?」

矢神に厳しく睨まれて、佳織は途端にシュンとうな垂れた。
「ありません……」

「それほど心配なら、今でなくても話が進む前に言えばよかったではないですか。
 月井に言えなくても私には言えたでしょう? とにかく月井を信用してください。彼に雇われている身として、彼を信用できなくてどうするんですか?」

返す言葉がなかった。

依頼を受けてから十日しかなかったのである。十日後に彼女にパリに送るためには実質一週間もなかった。
仕事は他にも抱えているその中で、彼女とは縁もゆかりもない自分が、彼女を自然な形で呼び出す方法として奨学金を思いついてから今日まで、話を進めることに必死で振り返る余裕などなかった。

考えてみれば理不尽な話であるのに、どういうわけだかその苦労も忘れてすっかり叱られた子供のように、佳織はガックリと項垂れた。

「すみません。私が悪ぅございましたです」
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