若奥さまと、秘密のダーリン +ep2(7/26)
その整った横顔のどこかに、不安や疑問が浮かんではいないか。
そう思いながらまじまじと見つめたが、彼の彫刻のような横顔は、普段と何も変わらない。

「これから婚姻届を提出してこようと思います」

新聞に目を向けたまま、彼は淡々と答える。
「ああ、よろしく」

結婚という人生に係わる重要なことなのに、その返事はあまりにも軽い。
こうなるまでに、何度も確認している。なので彼の答えはわかっているが、それでも矢神は聞かない訳にはいかなかった。

「本当によろしいのですよね?」

彼はカサリと音を立てながら新聞を折り畳み、眉をひそめて矢神を振り返った。

「君も随分しつこいね。本当にいいよ、出してきて。どうして昨日のうちに出さなかったんだ?」

「すみません――。ではこれから行ってきます。そのまま向葵さんのパリ行きのチケットも手配させていただきます」
「はい。よろしく」

この上司の口から出る言葉は、とても少ない。それは今に始まったことではなく、秘書になった時からずっと、矢神が上司に抱く印象は変わらない。彼は無口だ。

その代わり瞳の奥でものを言う。
< 61 / 314 >

この作品をシェア

pagetop