若奥さまと、秘密のダーリン +ep2(7/26)
今回の結婚話は、立て続けに彼の元にきた見合い話に起因する。それは間違いない。

『うっとおしいな』
うんざりとため息をつく彼に、いっそ結婚してしまえばいいのでは? と言ったのは矢神だが、それはあくまでも軽い冗談のつもりだった。

『たとえば誰と?』
そう聞かれて、まず思い浮かべたのは彼のまわりに女性たちだった。

どこぞの令嬢、名の知れた音楽家。ファッションモデルや女優。時には食事を共にする彼女たちは押し並べて美しいが、百パーセント大人の関係と割り切ることができる女性ばかりだ。
その中に、結婚を連想させるような相手はいない。

常に忙しい彼に、安らぎを与えるような。

長時間労働が制限されるのは従業員だけだ。彼のような経営陣は昼夜を問わない勤務を当然のように強いられる。海外で重要会議が行われれば、それがたとえ東京時間の深夜でも関係ない。テレビ会議に出席するのは当然だし、タクシーを乗り回すように飛行機で移動することも普通のことである。知力だけではなく体力も精神力も強健であることを要求される。

そんな生活の中で愚痴ひとつ口にすることがないハードワーカーである上司の心に、温かい安らぎを与えてくれるような、穏やかで明るいごく普通の女性。

そう思ったのは本心だった。
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