愛さずにはいられない
「お母さん、これはお父さんと使ってください。奈央さんには不自由なく生活できるように貯蓄も十分にありますから。」
仁が助け舟を出す。
「違うのよ。このお金は奈央のものなの。」
「お父さんお母さんが苦労して稼いだお金でしょ?私だってもう働いて何年もなる大人だし。結婚式の時もいろいろお金かかっただろうから。」
奈央が母にそう言って通帳を返そうとする。
「奈央、その通帳見てごらん。そしたらわかるから。」
「?」
母の言葉に奈央が通帳を開ける。
「これ・・・」
通帳には奈央と絃が所属していたレコード会社から定期的に振り込まれていることが書かれていた。振り込みが始まったがちょうどデビューした時。
つい最近も結構な額が振り込まれていた。
「印税っていうの?それがこうして振り込まれているのよ。絃君は亡くなったから契約外になったけど、奈央にはまだ振り込まれているの。いつかあなたに渡そうと思って手を付けていないからかなりの額になってる。私たちも困っていてね。」
奈央は急に何も話せなくなってしまった。
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