愛さずにはいられない
「今でもそのことを考えると悲しいし、寂しいし、大きな喪失感を感じる。でもね、あの出来事がなかったら今の私たちはなかったって確信してる。あの別れが私たちを強くしたし、だからこそ新しい幸せをたくさんつかむことができた。ひとつひとつのことに真剣に向き合えるの。」
莉子の表情は一度かげが見えた。それでも話を終える頃には再び穏やかな笑顔に戻る。
「命を失った悲しみは・・・乗り越えられますか?」
「・・・」
奈央の言葉に莉子は何となく悟った。
「乗り越えられない。だって命を失ったんだもの。でも、ちゃんと向き合えるようになる。いつか、必ず。」
莉子が力強く奈央を見つめる。

奈央は莉子と話ができてよかったと思った。

「奈央」
大悟との対談を終えて仁が奈央のもとに来た。
「片づけありがとうな。」
「うんん。お疲れ様。」
ほとんど終わっていた片づけ。奈央の表情が朝とは違うことに仁は気が付いていた。
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