愛さずにはいられない
踏み出せない一歩
仁からの突然のプロポーズのあと、奈央は春の特集号の刊行へ向けて忙しく、仁とは会えない日が続いた。次に仁に会ったら奈央はプロポーズを断ろうと思っていた。
やっぱり、奈央にとって仁は兄のような存在で、好きとは違う。自分の気持ちは今も昔も絃にある。そう思っていた。

「WOMAN春号、無事に刊行するところまでたどり着けました。皆さんお疲れさまでした!」
スタジオでの盛大な打ち上げ。特に春の特集号の刊行は退職する職員や新入社員の歓送迎会も兼ねていていつも盛大に行われた。編集長が代表であいさつをするとみな乾杯をしてそれぞれに会食が始まる。奈央はまだ中堅社員。先輩たちへの接待で忙しかった。
打ち上げには撮影に協力してくれた服やコスメブランドの関係者やもちろんスタイリングに協力したスタッフも呼ばれる。
奈央は参加者の中に仁がいることはわかっていたが、忙しさと参加者の多さに仁を見つけることができていなかった。

「蓮水さん、こっちにビール。」
「はい。」
先輩からの指示に奈央は裏から缶ビールを運ぶ。
「先輩、これどこに置きます?」
後輩からはオードブルの位置を聞かれて指示を出す。
その合間に貴重な関係者とのコミュニケーションの場として自分の名刺を渡し、今後の自分が担当するページへつながるよう、ネットワークを広げることにも奈央は忙しかった。
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