愛さずにはいられない
「お待たせしました。蓮水さんの処置を担当しました外科の和田と申します。」
奈央と仁の部屋へ入ってきた医師は二人に頭を下げる。長身で細身の医師は若そうに見える。その表情は温かさを感じる優しい表情だった。仁が医師の胸のネームを見ると 外科主任 和田朝陽 と書かれていた。

奈央が立ち上がろうとすると「そのままで結構ですよ」と優しく微笑んだ。
その穏やかな表情に奈央の緊張が少しほぐれる。

「お父さんはこちらへ搬送されたときに頭に裂傷を負っていました。おでこのちょうど右横のあたりです。そちらは7針縫合してすでに出血も収まっています。しばらくは痛むと思いますので痛み止めを処方します。それから、ぶつけた時の頭蓋内の出血はCTで見る限り確認されませんでした。念のため出血を抑える薬を一週間ほどのんでいただきます。」
医師はCTの画像を二人に見せながら説明をする。
奈央は仁の手をありったけの力で握りしめていた。
「父は、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ?今は麻酔で眠っています。今夜は念のため入院していただきますが明日には自宅へ戻れますし、3・4日後には仕事へも戻れますよ。1週間後抜糸しますのでその時にもう一度通院していただきます。」
医師の言葉に奈央は全身の力がぬけた。
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