バッドジンクス×シュガーラバー
「うちらのリーダーにはもう会った? 久浦部長」



カタカタと流れるようにキーを叩きながらの言葉に、私はうなずく。



「あ、はい、さっき廊下でちょこっと……挨拶程度ですけど」



そういえば……このオフィスではまだ見てないな、部長の姿。

植田本部長もかなり信頼しているみたいだし、会議やら取引先訪問やら、何かと任されているのかもしれない。



「そっかー。じゃあ、アノコトはまだ知らないんだ?」

「……? あのこと?」



わけがわからなくて、素直に首をかしげる。

「小糸さん、浅村と話すときは普通だよな……」ってつぶやきが隣から届いたような気がしたけれど、とりあえずそれは聞こえないフリをしてしまった。

浅村さんの、綺麗にリップが引かれた唇が弧を描く。



「あのね、久浦部長は厳しいけれど仕事はできるし、見た目もあの通り強面とはいえ整ってるんだけど。それだけじゃなくて──」


「えっ、マジかよ!!」



彼女の言葉に被さるようにして聞こえてきた興奮気味の声に、思わず顔を向けた。

声の元は、オフィスの出入口近くに置いてあるコピー機の前で雑談していたふたりの男性社員らしい。

先ほど声を発した人と並んで立つ男性が、得意げにピースサインを作る。



「マジマジ。久浦部長に頼んだら1発よ」

「うあ~くっそうらやましいな!」

「なになにー、どうしたの?」
< 10 / 241 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop