バッドジンクス×シュガーラバー
「部下のお見舞いにちゃっかり自分が開発した商品を入れるって、どんだけ自信家なのって感じよねぇ」



えみりさんが、私の手にあるものを覗き込んで可笑しそうに言った。

久浦部長が、お見舞いにと持たせてくれた“それ”は──彼が開発したコズミック・マインドの人気スイーツ、【贅沢エクレア】で。



『わ、私はエクレアなら、ウチの【ご褒美エクレア】が1番好きです……っ』

『なんでもねぇよ。いいからとっとと食えよ』



いつか、あの人とふたりで行ったケーキ屋さんで交わした会話が、脳裏によみがえる。



「……ふふっ」



潰してしまわないように注意しながら、そっと両手で胸に抱く。

気づけば無意識に、顔をほころばせていた。



「いいんです。大好きなので、うれしいです」



そう言った私を、一瞬きょとんとした表情でえみりさんが見つめる。

けれどもすぐに、優しく目を細めた。



「あーあ、さすが久浦部長。手にした人がそんな顔をしてくれるなら、開発者冥利に尽きるって感じね」

「え?」



彼女の言う『そんな顔』がどんなものなのか訊ねるより早く、続けてえみりさんが口を開いた。



「あ、ちなみに私が買ってきたのは、某ライバル店さんのゼリーね。私このシリーズ気に入ってるの~」

「わ、ありがとうございます! 私も実は好きで、よく買うんですよ」

「あら、それはよかった。このことは久浦部長には内緒にしときましょ」

「あはは、はい」
< 118 / 241 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop