バッドジンクス×シュガーラバー
6:変わる世界×気づかされた熱
翌朝の出勤中。
駅から自社ビルへと歩く道すがら、前方に見慣れた人物の背中を見つけた私はバクンと大きく心臓をはねさせた。
声をかけるべきか、今はまだ心の準備が整っていないことを理由にさりげなく息をひそめるか。
だけどどうせ心の準備なんていつまでも経ってもできやしないと正しく自己分析した私は、腹を括ってその広い背中に駆け寄った。
「ひ……久浦部長!」
呼びかける声に反応して振り返った久浦部長が、私の姿を捉えて足を止める。
「小糸か。おはよう」
目の前まできた私を見下ろして、うっすらと笑みを浮かべた。
それすらにドキドキしつつ、こちらも応える。
「おはようございます。昨日は、ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
「いや。もう体調はいいのか?」
「はい、今はもうすっかり元気です」
好調ぶりをアピールするように、グッと両手のこぶしを胸の前で握りしめながら返した。
久浦部長は「そうか」と言って、また優しく目を細める。
うっ……さっきから、早鐘を打つ心臓の落ちつく暇が全然ない。
上司の前で失礼だとは承知しつつ、私はソワソワと自分の前髪に触れながら目を泳がせる。
「あの、昨日えみりさん……浅村さんから、聞きました。久浦部長が、私の様子を見てくるように言ってくれたって」
「ああ……」
「えっと、ありがとうございました。ドリンクやスイーツも……うれしかった、です」