バッドジンクス×シュガーラバー
久浦部長がまた笑いながら「とりあえず向かうか」と言って歩き出したので、不本意ではあるがその背中に続く。

斜め後ろにつこうと思っていたのに、部長がスピードを落としたせいで結局隣を歩くことになってしまった。



「そういえば、浅村さんから牧野さんとのこと聞きました。私、全然気がつかなかったです」



間をもたせるために私がその話題を出すと、久浦部長は前を向いたまま「ああ」とつぶやく。



「おまえは鈍そうだよな、そういうの」

「……否定はできません」

「はは。がんばって否定しろよ」



無邪気に笑った横顔に、ドキンと心臓が高鳴った。

慌てて前を向き、目を逸らす。

そんな私の様子に気づいていないらしい部長は、話を続けた。



「まあ、同期だろうが同じ部署だろうが、仕事に差し支えなければ別に構わないと思ってる。公私の区別さえきちんとしてれば、社内恋愛なんて自由にすればいい」



そこでなぜか不自然に沈黙が続いたため、前を向く私は疑問に思う。

チラリと、その横顔をうかがおうとして──思いがけなく久浦部長が私のことを見つめていたことに気づき、また心臓をはねさせた。
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