バッドジンクス×シュガーラバー
「ねぇ、小糸さん」

「はい?」



無意識にうつむかせていた顔を、ハッと上げて首をめぐらせた。

そこにはやはり、ニコニコ顔の浅村さんがいる。

その綺麗な指先がとても自然な動作で、私が首から下げている社員証を軽く持ち上げた。



「小糸さんって、名前『憂依』っていうのね。あんまり聞いたことないかも」

「あ、はい。そうですねぇ」



この名前について珍しいね、なんて言われるのは、よくあることだ。

コクリとうなずき、彼女の言葉を肯定する。

浅村さんは私の社員証から手を引っ込めると、そのまま左手でデスクに頬杖をついた。



「うい、って名前の響きかわいいわねー。今度から、小糸さんのこと『憂依ちゃん』って呼んでもいい?」

「あ、それはもちろんです!」

「ふふ、よかった。それじゃあ私のことも、ぜひ名前で呼んで」

「……っ! はい、えみりさん!」



先輩の方から距離を縮めてもらえたのがうれしくて、満面の笑顔で答えた。

……けれど。



「えー、浅村ばっかズルいな」



和やかに笑い合う私たちの間にまたも別の声が飛んできて、反射的に肩がはねた。

ほとんど背を向けるようなかたちになっている、右隣の席。

そこからなんだか拗ねたように、牧野さんが会話に割り込んでくる。
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