バッドジンクス×シュガーラバー
「なによ、女同士の会話に入ってこないでよねー」

「えー、俺だって小糸さんと仲良くなりたいんだけど」



どことなく唇を尖らせて話す牧野さんを見て、ひざに置いた両手を思わずギュッと握りしめた。

……やだ、やめて。

そんなこと、言わないでほしい。



「あーあ。あんたみたいなのが近づくと、真面目な憂依ちゃんが毒されそう」

「ひでーな! これから一緒に仕事してくんだから、仲が良いに越したことはないだろ~」



……私に、関わろうとしないで。

だって、そうしたら。

……あなた、が──。



「ね、小糸さん!」



私の顔を覗き込むように、牧野さんが首を傾けた。

その表情は笑顔で。ただ、私と仲良くしたいっていう無邪気な好意しか、感じられない声音で。

……だけど。



《……だいじょうぶか? 憂依……》



過去に見た、苦しげな“あの人”の微笑みが、頭の中によみがえる。



「俺も小糸さんのこと、『憂依ちゃん』って呼んでいい? 小糸さんも、よかったら俺のこと名前で──」

「っだ、めです……!!」



思ってた以上に大きな声が出たことに、自分でも驚いた。

そしてそれは予想外なくらい、オフィス内に響き渡ってしまったらしい。

傍らには、驚いた表情で目を丸くしている牧野さんがいる。

シンと静まり返った周りの雰囲気に、私は一瞬にして冷や水をかぶったような錯覚に陥った。
< 15 / 241 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop