バッドジンクス×シュガーラバー
数メートル先に立っていたのは……なんと、ものすごく険しい表情でこちらを見つめる久浦部長で。

いつも以上に眉間にシワの寄ったその迫力のある顔を見た瞬間、思わずゴクリと唾を飲み込んでしまう。

コツコツと革靴の底を鳴らしながら、久浦部長が大股で近づいてきた。



「悪いが、小糸はこれから大事な会議がある。また今度にしてくれ」

「えっ?」



目の前までやってきた久浦部長の圧に押されながら、男性社員が戸惑った声を上げる。

困惑しているのは私も同じだ。会議があるなんて聞いていないし、今まさに退社しようとしていたのに。

私の格好からも明らかに業務を終えていることはわかっていたから、この人だって声をかけたのだろう。

けれども部長は戸惑う私たちなんておかまいなしで、さらに不機嫌そうに目を細めた。



「もういいか? 小糸はもらうぞ」



あっと声を上げる間もなく、腕を掴まれて方向転換させられる。

引きずられるように歩いているから、後ろを振り返って男性社員の様子を確認することもできない。

そのまま私は、近くにあったミーティングルームに連れ込まれてしまった。



「あの、久浦部長……?」



ともに室内へ入るなりドアの鍵を閉め、置いてある長テーブルと自分との間に私を閉じ込めた久浦部長を、おそるおそる見上げる。

私の身体の両脇にはテーブルに手をつく部長の長い腕があるから、身動きがとれない。

心臓の動きを忙しなくさせて混乱の極みにある私を、久浦部長は相変わらずのしかめっ面で見つめた。
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