バッドジンクス×シュガーラバー
右手で口もとを覆い、もう片方の手はカットソーの胸もとを無意識に掴みながら、早足で廊下を進む。

表情を隠す手のひらの下で、私はきっと尋常じゃないほど顔を赤くしていたと思う。



『この俺が──なんとも思っていない女にここまですると、本気で思ってるのか?』



だって……まさか。

そんな、だって……あの久浦部長が、まさか、私のことを──?!



「あら、憂依。お疲れさま」



意味なくボタンを連打し、待ちかねたエレベーターへと乗り込んだ先で会ったのは、同期兼友人である侑子で。

とたんに気が抜けてしまった私は他にいなかったこともあり、ふにゃりと情けなく顔を歪ませた。



「侑子ぉ~! どうしよう私、どうしたらいいの~」

「はあ? 『どうしよう』って、一体何があったのよ?」

「……い、言えない~」

「はああ?」



完璧なプロポーションを持つ侑子の身体に抱きついて泣き言を漏らすも、胸の内すべてはさらけ出せない。

だって、本当に信じられないのだ。地味で冴えない私が、あんなふうに──誰かから、熱っぽい瞳を向けられていたなんて。

しかもその相手が、久浦部長? ……こんなの、夢に違いない。



「あああ、でもすごく柔らかいしいい匂いもするよぉ~」

「ちょっともう、ほんとに何がなんだかわからないんだけど……」



呆れたようにつぶやく侑子の胸に顔をうずめながら、今だけは現実逃避を試みる。

だけど、ついさっき嫌というほどドキドキさせられた記憶は、なかなか頭から離れてはくれなかった。
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