バッドジンクス×シュガーラバー
小糸に続いてそう話したのは、ずっと俺の背後に立っていた牧野だ。

完全に消沈している様子の小糸を前に、部下たちの話を聞いた俺は顎に片手をあてながら考え込む。

我ながら、難しい顔をしているだろう。少しの間のあと、ようやく覚悟を決めた俺は顔を上げて牧野を振り返る。



「牧野は、午後からメーカーとの打ち合わせが入っていたな?」

「はい。昼済ませたらすぐ出ます」

「わかった。じゃあ、俺と小糸だけで行ってくる」



牧野と小糸、それぞれが「え?」という表情をしたり実際声に出す中で、俺は椅子から立ち上がった。



「出かけるぞ小糸、今すぐ準備しろ。【和紅茶のマフィン】の企画書も忘れずに」



背もたれにかけていたジャケットを手に取り、小糸を見下ろしながら言い放つ。

一瞬ポカンとしていた彼女は、それでも慌ただしく踵を返して自分のデスクへと駆け寄った。



「部長自ら、突撃ですか? 心当たりが?」



意外そうな牧野の言葉に、渋い顔でボソリと答える。



「まあ……なんとか交渉してみる」

「え。それってどういう……」

「すみません、お待たせしました!」



牧野がまた質問を返してくるより先に、バッグを持った小糸が舞い戻ってきた。

少々無謀だが、とにかく今はやるしかない。

うなずいた俺は、たまたま近くにいた植田本部長にもひと声かけてから、小糸を伴ってオフィスを出る。
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