バッドジンクス×シュガーラバー
俺の謝罪に反応した彼女が慌てたようにこちらを見たため、ようやく目が合う。

瞬間、小糸はハッと息を呑んだかと思うと、またすぐに視線を逸らしてしまった。

そんな彼女を見下ろしながら、おもむろに口を開く。



「……遅くなったこともそうだが。身内のゴタゴタに巻き込む形になったのも、申し訳ないと思っている」

「え、と、それは……いえ、とんでもないです。むしろ、でしゃばってしまってすみませんでした」



話しながら俺がじりじりと距離を詰めていることに、戸惑った表情の小糸はおそらく気づいていて。

狭いシートの上で、精一杯俺から離れるように身動ぎしている。

発する声には感情を載せることなく、俺はただ淡々と聞こえる口調で話を続けた。



「でしゃばったなんてことはない。小糸の言葉があったからこそ、稔もひとまず俺を許す気になってくれたんだろう」

「そ、そうでしょうか」

「ああ。だから、ありがとう。今日はおまえがいてくれて、助かった」



言っていることは本心なのに、我ながら硬い声色だと思った。

だって、仕方ない。俺は今、自分の中からあふれ出しそうになっている熱情をなんとか抑えつけようと必死になっているのだ。
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