バッドジンクス×シュガーラバー
だというのに小糸は、その柔らかそうな頬に薄暗い車内でもわかるほど赤を滲ませ、照れくさそうに目を泳がせている。

そして、ポツリとつぶやいた。



「えと、それなら、よかったです……でもあの、私が言ったことは本当に本心ですから……だからその、印象を良くするために嘘を言ったとかでは、絶対にないので……」



……ああ、もう。

こんなに、俺をよろこばせることばかり伝えられて……これ以上、どうしろっていうんだ。

ここ最近の気まずさをようやく思い出したのか、帰りの車中の彼女は、ひたすら前方や窓の外ばかり見て黙り込んでいることが多かった。

やっとのことで、この狭い密室から解放されると思ったのに──逃がしてやれると、思ったのに。

彼女からする甘い香りも届きそうなこの距離が、どうしようもなく俺の頭をクラクラさせる。



「なあ小糸、聞いてくれ」



ささやきながら小さな右手を包み込むように自分のそれを重ねれば、ビクッと小糸の身体が震えた。

きっと脳内は大混乱しているであろう彼女が硬直したのをいいことに、いっそう顔を近づける。
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