バッドジンクス×シュガーラバー
部長が足を踏み入れたのは、同じフロアにある小さめのミーティングルームだった。

ホワイトボードの前でくるりとこちらを振り返った顔は、やはりどこか不機嫌そうにも見える冷淡な表情だ。

……せっかく整った顔してるのに、もったいないな。

通常ならそんなことを思うのかもしれないけれど、あいにく今の私には、他所事を考えている余裕なんてこれっぽっちもない。



「そこ、座れ」

「あ……はい」



威圧感のある声にいちいちびくつきながら、示されたパイプ椅子へと腰かけた。 

ふと見ると、目の前にあるテーブルの上には何の飾り気もない透明なパッケージに入ったお菓子が置いてあることに気づく。



「そのドーナツ食べろ。で、感想言え」



言い放ち、部長は私から少し離れた場所で仁王立ちのまま腕を組んだ。

『食べろ』……っていきなり言われたって、そんな見られてちゃ非常に食べにくいんですけど……。

けれどビビりな私に、そんな申し立てができるほどの度胸などあるはずもない。



「は、はい……」



おそるおそる手を伸ばし、部長が示したお菓子を手に取った。

茶色というより、ほんのりオレンジ色をしたドーナツだ。パッケージに何も書いていないのは、もしかして試作品だから?

袋を開けると、やはりかすかに柑橘の香りがただよう。

両手で持ったそれに、私はパクリとかぶりついた。



「どうだ?」



丸いドーナツが3分の2ほどになった頃、相変わらず仁王立ちのまま平坦な声音で問いかけられる。

咀嚼していたものを飲み込み、小さく答えた。



「あの……おいしい、です」

「それだけか?」



間髪入れずに返される。

少しだけためらいながら、私はまたこわごわ口を開いた。



「おいしい……ですけど……私には、中のクリームが少しこってりしすぎなように感じます。外側の生地のさわやかさを邪魔してる気がして……あの、無理に濃厚な生クリームを使用しなくても、もっと軽い口当たりのホイップクリームの方が相性は良いんじゃないでしょうか」



言いきってから、もしかして余計なことまでしゃべっちゃったかも、と急速に後悔が襲う。

けれど予想外に、上目遣いでうかがった部長は感心したような表情をしていた。
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