バッドジンクス×シュガーラバー
堪えきれずペコリと一礼したあと、不自然じゃない程度の急ぎ足でオフィスを出た。



「はあ……」



背後でドアが閉まる音も聞かないまま廊下を進み、両頬で手のひらで挟みながら熱い息を吐く。

……あんな目で、見ないで欲しい。

オフィスを出る直前、久浦部長から向けられた眼差しを思い出して体温が上がる。

じっとまっすぐに、私を射抜く鋭い瞳。

ここは職場だというのに、あんな一瞬のやり取りの間でも、久浦部長が私を見る目はどこか熱っぽくて──ものすごく、困る。

思い出すと、また吐息がこぼれた。ここ数日間の私は、気を抜けばため息ばかりついている。

5日前にあたる、先週の木曜日。

久浦部長と急遽静岡へと出張したあの日……私は、久浦部長と2度目のキスをした。

今思い返しても、顔から火が出そうなほど恥ずかしい。

会社の地下駐車場で、しかも社用車の中で。だというのにとてもとても、いやらしいキスだった。



『どうすれば──おまえは、俺のものになるんだ』



掴まれた右手の指先に口づけながら……まるで懇願するような切ない響きでささやかれて、息が止まった。

かと思えば、大きな手が私の顔の下半分をがしりと掴み、驚いている間に唇が重なっていた。

痛みはなかったけど少し荒っぽいその仕草が、余計に部長の余裕のなさを伝えるようで──私はもう、このまま死んじゃうんじゃないかってくらいにドキドキしたのだ。
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