バッドジンクス×シュガーラバー
エレベーターホールにたどり着き、下りのボタンを押す。

肩にかけているバッグの持ち手を握りしめながら、表情を引き締めるように下唇を噛んだ。

やってきたエレベーター内は無人だった。乗り込んでボタンを押した私はドアが閉まるのを見届けると、壁に背を預けて身体の力を抜く。



『うつむいた暗い顔じゃなく、笑った顔を目の前で見てみたくて。それが叶ったら、今度はその笑顔を俺だけに見せて欲しいと思うようになっていた。知れば知るほど、いつも一生懸命で自分よりも他人ばかり心配しているような内面にも好感を持った』



キスをする前。熱っぽい声音で、そう丁寧に綴ってくれた。



『……好きだ、小糸』



キスの合間。シンプルな言葉で、ストレートに伝えてくれた。

あの言葉たちが、脳裏で再生されるたび──私の胸はきゅーっと締めつけられて、その苦しさに泣きたくなる。

だけどそれは、決して不快なものじゃない。

むしろ同時に、切ないくらいのいとしさやうれしさが、込み上げてくるのだ。

これって、つまり──……。
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