バッドジンクス×シュガーラバー
「……私も……久浦部長が、好きってこと……?」



誰もいないエレベーター内でポツリとつぶやき、自分の発言に赤面する。

心臓の真上にあたる左胸に片手をあててみれば、そこは尋常じゃないほどの速さで脈打っていた。

……ああ、なんてことだ。

私はとっくに、久浦部長に恋をしていたんだ。

久浦部長のご実家の話を知ったとき……いつか部長も経営に関わるためにこの会社を辞めるのかもしれないと思ったら、どうしようもなく胸が痛んだ。

そして部長にその気がないとわかって、ひどく安心したのだ。

自覚してしまえば、これまでずっと不可解だった自分の感情の機微も腑に落ちる。

どうして、あの人の言動だけがここまで心に響くのか。こんなにも、心を乱すのか。

少し前の自分なら、あんなふうに男性から好意を向けられたとしても、ただひたすらに申し訳なく思いながら拒絶するだけだった。

……でも、今の私はちょっとだけ心境が違っている。

自分ひとりですべてを背負い込んで、勝手に“最善”を決めつけていた。あの頃の自分から、1歩踏み出したのだ。

その大きな1歩を後押ししてくれた特別な人が、自分のことを『好きだ』と言ってくれた。

こんな奇跡のような幸せを、受け入れても許されるのだろうかと……受け入れてしまいたいと、願ってしまう私がいる。
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