バッドジンクス×シュガーラバー
エレベーターが目的の1階に到着し、ドアが開いた。

ゆっくりとエントランスに向かって歩きながら、私の思考は続く。

問題は……この気持ちを恋だとするならば、自分と相手の間にはギャップがありすぎることだ。

久浦部長はこともなげに「触りたい」なんて言うけど、私にはとてもそんなこと口にできないし、実際行動に移すこともできない。

だけどそれは、頭であれこれ考えるより先に渦中へと飛び込んでしまえば、時間が自然と解決してくれるのだろうか。

呪われた自分が誰かを好きになったり、ましてや好きになってもらうだなんてことは──とてつもなくリスキーなことだと理解はしていたし、今もそれは変わらない。

けれども久浦部長は、そんな私のジンクスなんてはねつけてしまうほどの強運の持ち主だった。

しかもなぜかここ最近ジンクスの効力が、久浦部長に限らず他の男性たちにも表立って現れていないように感じるのだ。

気のせいなのかもしれない。勘違いなのかもしれない。

だけどたとえば、私の“呪い”が本当に解けていていたとしたら?

自分の素直な気持ちに従って、あの人の手を取ってしまってもいいのだとしたら?

自動ドアをくぐり外へ出ると、日の入りまであと1時間はある外はまだ明るい。

ぐっと顎を上げ、メガネのレンズ越しに空を見上げる。

時間帯はまったく違うはずなのに、その景色が「ちゃんと母親と話をしてみたらいい」と久浦部長に背中を押してもらった、あの日と重なって見えた。

……好き、だなあ。

その気持ちは自然と湧き起こって、胸の中をあたたかくする。

不安は、完全に拭い去れない。

それでも私はどこか晴れやかな気分で、前に足を踏み出したのだった。
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