バッドジンクス×シュガーラバー
「なるほど。さすが、植田本部長が気に入って引っこ抜くだけのことはあるか」

「はい?」



困惑する私の目の前で、顎に片手をやりながらひとつうなずいた部長。

その少し節ばった指先が、私が持ったままのドーナツを指し示す。



「小糸が今食べたそれは、昨日の新商品試食会でボツになったサンプルだ」

「え?」

「最終的に『これで行こう』となったのは、さっき小糸が言ったように中のクリームをあっさりめに作ったものだった。若い世代ならともかく、今おまえが持ってる方は中高年にはくどくてウケないだろうとなってな」



そう言って、久浦部長はニヤリと意地悪っぽい笑みを浮かべた。

初めて自分に向けられた部長の笑顔に、一瞬ドキッとしてしまう。


……ん? けど、それってつまり。

私がこの試作品の問題点を指摘できるかどうか、試したってこと?

今回は、なんとか部長の逆鱗には触れずに済んだみたいだけど……もし間違えた感想を言ってしまっていたらと思うと、背筋が寒くなった。



「あー、それとな小糸」



再度名前を呼ばれ、そっと久浦部長に目を向ける。

私を見据える部長は、今度は真顔だ。

それに怖気付いて、視線を手もとのドーナツへ落としながら「は、はい」とかろうじて返事をする。



「昼間、牧野たちと何か騒いでただろ。なんとなく話は聞こえてたが、男が苦手だといってももう少し上手い躱し方は思いつかなかったか?」

「あ……えと」

「それとも、アレか。おまえにとっちゃセクハラに感じたか?」



顔は向けられないまま、それでもすぐにぶんぶんと顔を横に振った。

セクハラだなんて、そんなふうには思ったりしてない。私みたいな地味女をその対象にする人はめったにいないだろうし、そもそもあのとき牧野さんは、単純な好意で話しかけてくれてた。

なのに、私は──……。
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