バッドジンクス×シュガーラバー
「……大丈夫、ですよ」



つぶやいた声に反応し、久浦部長が肩越しに軽くこちらを見る。

その視線から逃れるように目を逸らしながら、私は続けた。



「きっと、久浦部長なら……そのうち、素敵な女性が現れますから」



ピタリと、部長が足を止める。

私のことを見つめていると、わかっているのに──同じく立ち止まった自分はうつむいて、その顔が見られない。



「……それが、おまえの答えなのか?」



静かに口を開いた久浦部長は、何の感情も読み取れない声音だった。

私は相変わらず、目線を床に落としたまま。一度唇を動かしかけて、やめる。

ただ無言で、コクリとうなずいた。



「……そうか。わかった」



少しの間のあと、意外なほどあっけなく返ってきた声からは、やはり何も感情が伝わらない。

久浦部長はそのまま歩き出し、私を置いてどんどん廊下を進んで行く。



『突然だったかな。前に憂依に話を聞いてから印象が変わって、久浦部長のこと気になるようになっちゃったの。……応援、してくれる?』



思い出すのは、暖色系の明かりが照らす、雰囲気のいいレストラン。

口もとに笑みを浮かべながら、ゴールドの繊細な造りのピアスを揺らし小首をかしげたあのときの友人の姿は──今こうして思い出した記憶の中でも、とても美しい。
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