バッドジンクス×シュガーラバー
あのときの自分は内心でひどく動揺しつつ、ただ曖昧に言葉を濁すことしかできなくて。

だけど時間が経つほど、胸の中には鉛のように重い不安や迷いがどんどん溜まっていく。

だって──どう考えても、私は久浦部長にはつり合わない。

少し前の自分は、とんだ思い上がりをしていた。こんなにかっこよくて頼もしい、魅力的な男性の隣を……どうして自分が、並んで歩けるだなんて思っていたのだろう。

そう、ふさわしいというのなら、まさにそれは侑子のような女性で。

少しわかりづらいところはあれど、心根の優しい彼女のような──気高い美しさを持つひとこそ、久浦部長の隣に立つべきなのではないのだろうか。

1度心についたシミは、じわじわとその範囲を広げていく。

……これで、いいんだ。

廊下の途中でうつむいて立ちすくんだまま、熱くなる目もとに力を込めながらまばたきを繰り返す。

大切な友人を裏切る強かさも、魅力的な女性と張り合えるだけの自信も──私は、持ち合わせていない。

久浦部長だって、今はただ、私のような面倒で冴えない女が物珍しくて気になってるだけ。

きっとそのそのうち、目が覚めるはずだ。

今にもあふれ出してしまいそうな感情を抑え込むように、深呼吸を繰り返す。

そうして顔を上げ、とっくに見えなくなってしまった背中に続こうと足を踏み出した。
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